浦和地方裁判所 昭和51年(む)102号 決定 1976年7月09日
主文
浦和地方検察庁検察官和田丈夫が昭和五一年七月七日申立人に対してなした浦和地方検察庁で検察官より接見指定書を受取り、これを持参しない限り、申立人と被疑者との接見を拒否するとの処分を取消す。
検察官は被疑者と申立人に対し同月九日午後一時から五時までの間、引き続き少なくとも三〇分間接見させなければならない。
理由
一 本件申立の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
(一) 当裁判所が行った事実調べの結果によると、次の事実が疎明される。
(1) 被疑者は昭和五一年六月二八日頭書被疑事件により代用監獄たる上尾警察署に勾留され、申立人は被疑者の依頼により弁護人となろうとするものである。
(2) 申立人は被疑者と接見すべく昭和五一年七月六日午前一一時ころ電話により浦和地方検察庁検察官和田丈夫に取調の有無を問合わせたところ、同検察官は「同日午後二時から三時までの一時間のうち一五分間接見して貰いたい。なお、接見するためには浦和地方検察庁に出向き、検察官の発する指定書を受取り、これを上尾警察署まで持参して欲しい。」旨答えた。これに対し、申立人は東京から上尾警察署へ接見に行く途中浦和駅で下車し検察庁まで指定書を受取りに赴くことの困難を訴え、具体的指定書を持参しないでも接見できるよう配慮して欲しい旨強く要請したが、これが要望は同検察官の容れるところとならなかった。
(3) しかし、右検察官の取扱いは違法であると考える弁護人は被疑者と接見するのに支障の有無を尋ねようと、翌七日再び同検察官に電話したところ、不在であったので、同日午後一時ころ被疑者と接見したい旨伝言を頼んだ後、同日午後一時少し前上尾警察署に赴き、被疑者に対する取調がなされていないことを確かめたうえ、同署警備課長に対し被疑者との接見を求めた。これに対し、同課長は「現在被疑者の取調べはしていないが、検察官の指定書がなければ接見させるわけにはゆかない。」と接見を拒否したうえ、電話で同検察官を呼び出し、これに申立人を応答させたが、その際同検察官は申立人に対し「指定書を取りに来られたい。同書面さえあれば接見させる。」旨繰返すだけで、接見の指定をしないので、結局、申立人は接見ができないまま同署を退出した。
(二) 以上の事実関係にある本件においては、被疑者と弁護人(となろうとする者)との接見が原則的に自由であることを明定した刑事訴訟法三九条の趣旨からして、前記の如き検察官の発する指定書を持参しない限り接見を許さないとした右検察官の所為は、同法条三項によって指定権行使につき捜査官に与えられた裁量の範囲を超える違法のものと解するのが相当である。すなわち、検察官らが同法三九条三項の指定を行う方式ないし方法について法はなんら規定するところがないので同法条所定の精神に反しない限り、指定権者の健全な裁量に委されているものと解すべきであるが、書面による指定が唯一、無二の方法とはいえない。なるほど、書面による指定が指定内容の明確性、保存性において優れ、過誤、紛争の防止に役立つことは否定し難いところであり、弁護人にその意に反した加重な負担をかけるものでない場合には極めて適切な方式といえようが、そうでない場合、とりわけ本件の如く申立人において捜査官に取調べの有無を問合わせ、接見希望の時間等につき事前連絡などして捜査に支障のないよう配慮したうえ、警察署に赴き、その際、現実に被疑者の身柄を必要とする捜査が行われていなかったのであるから、検察官としては書面の持参、呈示の方式に固執することなく、電話その他の方法によってもなしうべく、その正確性を保持するためには警察官が検察官の指定内容を聴取書として作成するなどの方法も可能であったとみられるのに拘らず、接見指定を書面に限るものとし、検察庁での指定書の受領、勾留警察署までへの持参、係官への交付を全て接見者側である申立人の負担とし、これが手続を履践しない限り、接見を許さないとすることは、本来自由であるべき接見交通権に法の予定しない制約を課するもので違法と解さざるをえない。
叙上の判断は、検察官において接見指定書を作成のうえ、いつでも弁護人に手交できるよう在庁待機していた事実によっても逕庭をきたすものではない。
(三) よって、本件申立は理由があるので刑事訴訟法四三二条(四三〇条)四二六条二項を適用(主文掲記の第二項については申立人の地位、接見目的及び希望並びに捜査の進展状況などを勘案)して、主文のとおり決定する。
(裁判官 杉浦龍二郎)
<以下省略>